『信長と将軍義昭』

  -連携から追放・包囲網へ-

谷口 克広 著

中公新書 刊

2014年8月25日(初版)
245ページ 820円

評 価
★★★★

谷口克広氏は、1943年北海道室蘭市生まれ。横浜国立大学教育学部歴史学科卒業。横浜市役所勤務などを経て東京都教職員。港区立港南中学校教諭。岐阜市信長資料集編集委員会委員。専攻は日本戦国時代史。
信長と消えた家臣たち』『
織田信長合戦全録』『信長と家康』『殿様と家臣』戦史ドキュメント秀吉戦記信長の親衛隊』など。『織田信長家臣人名辞典』は名著として高く評価されている。

本書は、織田信長の後ろ盾で将軍になった足利義昭は、無力な傀儡にすぎなかったのか。強烈な個性を放つ二人のせめぎ合いを鮮やかに描く。各地を流浪した足利義昭は、一五六八年、織田信長に奉じられて上洛し、宿願の将軍職に就いた。長らく傀儡にすぎないとされてきた義昭だが、近年では将軍として行使した政治力が注目されている。京都から追放された後でさえ、信長に対抗できる実力を保持していた、とする説もある。上洛後の信長と義昭は果たしてどのような関係にあったのか。強烈な個性を放った二人が、連携から確執、対立へと至る過程を詳述する。というもの。

織田信長家臣研究の一人者である谷口氏による書。

足利義昭の基本書には奥野高廣博士『足利義昭-人物叢書-』があるが、本書はそれに勝るとも劣らない好著である。
まず一級史料に基づいて丹念に史実を追っており、非常に信頼の置ける内容となっている。しかし通説にとらわれることなく、最新の研究を織り交ぜて、詳しい考証を行っている箇所も多い専門書。

読みやすく分かりやすい(格好のつけていない)谷口氏の名文で、信長と義昭の関係が非常によく理解できる良書。戦国史に興味があれば熟読したい一冊である。
なお、鞆幕府は信長や秀吉にとっては取るに足りないものであり、室町幕府はすでに滅亡していたと評価され、本能寺の変の「足利義昭黒幕説」は成立しえないとされている。

著者曰く
信長は人一倍世間の評判を気にした為政者である。そういう意味では彼は常識人であった。しかし、義昭というのは、世間の評判などはいっこうに気にしない男である。二人とも激しい性格を持っていたけれど、この点に関してはまさに対照的といってよい。相手は将軍という尊位にありながらも厚顔無恥、無責任な人だから、(中略)信長のように世論を重視する者にとっては、扱いづらいことこの上なかったのである。思えば、元来気の短いはずの信長がよくあそこまで我慢したものと感心せざるをえない。

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