『信長と消えた家臣たち』

  -失脚・粛清・謀反-

谷口 克広 著

中公新書 刊

2007年7月25日(初版)
270ページ 800円

評 価
★★★

谷口克広氏は、1943年北海道室蘭市生まれ。横浜国立大学教育学部歴史学科卒業。横浜市役所勤務などを経て東京都教職員。港区立港南中学校教諭。岐阜市信長資料集編集委員会委員。専攻は日本戦国時代史。
信長と将軍義昭』『
織田信長合戦全録』『信長と家康』『殿様と家臣』戦史ドキュメント秀吉戦記信長の親衛隊』など。『織田信長家臣人名辞典』は名著として高く評価されている。

本書は、信長は天下統一の過程で多くの配下の者を粛清した。反逆が疑われる者は無論のこと、抜擢に応えられなかった者も容赦なく切り捨てた。なぜ信長は周囲の理解を超えた過酷な処分を行ったのか。一方、趨勢が明らかにもかかわらず、結果的に少なくない数の武将が反旗を翻したのはなぜなのか。着々と進む天下統一の裏で続いていた信長と家臣、そして恭順した大名たちとの駆け引き。その生々しい局面から、信長の戦略と素顔に迫るというもの。

織田信長家臣研究の一人者である谷口氏による書。
「信長の天下統一事業に最後まで協力できた家臣は幸せ者である。能力がありながら、そして能力主義者の信長に認められながらも、幸運に恵まれずに散っていった者も大勢いる。筆者は、そのような不運な男たちにとかく情が移りがちである。せめて紙面で取り上げて、少しでも彼らの生き様を紹介してやりた。そのような気持ちで書いたのが、この一冊である。」という。

本書には、信長の家臣だけでなく、一揆衆、国人、大名など、織田家との争いの中で没落していった人々が記載されている。史料に基づいた信頼の置ける内容であり、改めて、戦国時代に散っていった人間たちの過酷な生き様がよく理解できる。書き振りも読みやすく、谷口氏の良書のひとつと言えよう。

明智光秀の謀反の理由は次のように書かれている。
・朝廷の関与は読み取れない。
・足利義昭、本願寺黒幕説も無理な説である。
・四国政策の変更が消去法で残る(斎藤利三との関係、光秀を足蹴にした事も関連)
・光秀の天下取りの野望がなかったとも言い切れない。
・光秀の67歳という高齢(『当代記』)による焦り。

結局、家臣を失脚させ、粛清してきた信長であったが、「短気、気まぐれ、傲慢、残忍、他人に厳格すぎること、執念深いこと、猜疑心が強いこと、執念深いこと」などの性格の「欠点」によって、家臣の謀反を招いたとのことである。

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