『本能寺の変』
-戦史ドキュメント-
高柳光壽(高柳光寿) 著 |
学習研究社 刊 |
1958年(昭和33年) |
評 価 |
著者は、戦国史研究の権威であった。 その研究は、極めて実証的で、予断を持たず、数多くの史料を冷静に分析される。博士の打ち出された新説の多くは、当時は画期的なものだったろうが、現在は通説になっている。 高柳氏の『戦国戦記』シリーズの一冊である。他に賤ヶ岳の戦い、長篠の戦、三方ヶ原の戦いが出版されている。(いずれも必読の名著である。)
本書は、不朽の名著である人物叢書 『明智光秀』とともに、高柳氏が本能寺の変から山崎の戦いについて解明された著書。 氏は、本書によって、新たな説を多く打ち立てられた。例えば、筒井順慶が洞ヶ峠に布陣して日和見をしたというのは史実ではない、山崎の合戦において天王山を争奪するための衝突戦は無かった、などであり、それらの多くは現在でも学術的に是認されているものばかりである。(俗説や一般書には、歴史を劇場型にすべく、これら新説を顧みないものが散見されるが) 特に、本書は、明智光秀の謀反の理由について、【野望説】を説いたことが重要である。 氏はこう説く、 「本能寺の変は、光秀が信長から数々の屈辱を与えられたことを恨んだために起こしたものであると普通に言われている。ところが私は、光秀は天下が欲しかった、それで本能寺の変が起こったとする。 この野望説は、その後、批判され、現在では主流とは言えないだろう。しかし、野望説を採るかどうかは別としても、本能寺の変と山崎の戦いの経過・仔細を知る事について、史料を丹念に洗い、冷静な分析のものに記述された本書は、必読の一冊と言えるだろう。 これらの合戦で、結局、勝者となった羽柴秀吉については、こう評されている。 「彼がこの好機を逸することなく、よく部下をまとめ得て動揺せず、運命の開拓へと猛進した勇気と機略については、まことに敬服に値するものがあったといわねばならない。」 |