『長篠之戦』

 

高柳光壽(高柳光寿) 著

株式会社 春秋社 刊

1955年(昭和35年)11月20日(初版) 390円
302ページ

評 価
★★★★★

著者は、戦国史研究の権威であった。
明治25年生まれ。東大史料編纂官、國學院大教授、大正大教授、日本歴史学会会長などを歴任。昭和44年没。

その研究は、極めて実証的で、予断を持たず、数多くの史料を冷静に分析される。博士の打ち出された新説の多くは、当時は画期的なものだったろうが、現在は通説になっている。

「戦国戦記」としてシリーズ化されたもののひとつ。他に本能寺の変賤ヶ岳の戦い、三方ヶ原の戦いが出版されている。(いずれも必読の名著である。)

本書は、有名な長篠合戦を、例にもれず、史料に基づき、鋭い洞察力で、新説を打ち立てながら記述されている。また、引用史料が明記されている点も素晴らしい。
はたして、今でもこのような完成度の高い歴史書を書くことのできる人がいるかは疑問だ。

悪名高き旧参謀本部の『日本戦史』による誤った歴史を訂正した功績は計り知れまい。

著者はいう、
「長篠の戦を記したものは、「原本信長記」「松平記」「三河物語」「大須賀記」「当代記」「甲陽軍鑑」「落穂集」「甫庵信長記」「総見記」「武家事紀」「家忠日記増補」「創業記考異」「大三川志」「武徳大成記」「武徳編年集成」「三州長篠軍記」さらには「寛永系図伝」「譜牒余録」「寛政重修緒家譜」など長篠の戦に関連した人々の条下、等々甚だ多い。しかもそれらの記事にはみな出入りがあるのである。このうち「三州長篠軍記」などは最も詳細で、甚だもっともらしくできている。しかし、それだけに実は信用できないのである。そこでこれらの記事を、多年勉強の堆積を基礎とし、古文書など良質の史料を参考にして、一々分析し、批判を加え、綜合して行くということは、決して容易なことではないのである。しかしそれをやらなければ真実は把握できないのである。」

また、長篠の戦いについて、
「勝頼は反省すべきであった。自分の力と敵の力とを比較すべきであった。彼が勝利の確信を抱いたところには、この比較があったに相違ない。しかしそれは冷静な批判のもとに行われたものではなく、多大の誤謬や欠陥があったと認めざるを得ない。単に兵力だけではなく、組織や生産や文化までも計算考慮する必要があるのである。戦略や戦術はその上に樹立さるべきものである。勝敗は戦闘をする前に決定しているといえる。」
と結んでいる。

(本書より著者近影。長篠城での一枚という。)

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