『明智光秀』
桑田忠親 著 |
新人物往来社 刊 |
昭和48年12月(初版) |
評 価 |
著者は、戦国史研究の大家であり、高柳光寿氏と並び評される歴史家であった。 本書は、本能寺の変の首謀者である明智光秀を学術的に研究したもの。 著者自身が、本書に先立って刊行されていた高柳光寿氏『明智光秀』について 高柳氏を筆頭とする野望説については、「一見、もっともらしくて、しかも、すこぶる感傷的な、あまったるい観念論」と辛辣に否定されている。 なるほど、怨恨説にはそれなりの説得力・史料があって、人々を惹き付けるものもあるが、逆に、高柳氏が怨恨説を否定された根拠について、これを論駁するだけの記載は見られない。 軍記物のストーリーに関しては、それが無かったと証明することはすこぶる困難な場合が多く、 やはり一級史料に基づいて、シビアに歴史考察をされるのが、本当の歴史学といえるのではないか。 また本書は、その書き振りも、いちいち出典を明記していないことで、一般向けには読みやすいかも知れないが、学術的には物足りないのが率直な印象である。 それはともかく、読み物としては、なかなか面白い著作であり、その後の本能寺の変研究に影響を及ぼした高名な歴史学者の説を通読するのは、無駄な作業ではないかも知れない。 著者曰く |