信長は謀略で殺されたのか

                                   本能寺の変・謀略説を嗤う 

 

藤本正行 鈴木眞哉 著

洋泉社 刊
229ページ

2006年2月20日(初版)
780円

評 価
★★★★

 

藤本正行氏は、1948年生。慶應大学卒。轄ハ陽代表取締役。千葉大、東京都立大非常勤講師を歴任。いわゆる正統派の学者ではないが、その研究は示唆に富み、画期的であり、戦国史を大きく変化させるほど価値のあるものばかりだ。

鈴木眞哉氏は、1936年生。中央大卒。防衛庁、神奈川県に勤務。「歴史常識」を問い直す研究を続け、著書に『偽書『武功夜話』の研究』など多数。

本書は、本能寺の変について、諸説紛々の明智光秀謀反の要因について検討し、特にさまざまに主張される”謀略説”について、それぞれ否定していくもの。
すなわち、明智光秀単独犯行説を主張している。

両著者のこれまでの著書と同じく、しっかりと史料に基づいた分析を前提とし、それに当時の文化・常識を加味し、丹念に史実を探っていくという真摯な文献である。出典・史料の明記もしっかりしている。

近年、”謀略説”で注目を浴びた「足利義昭黒幕説」(藤田達生氏)や「イエスズ会黒幕説」(立花京子氏)について完全に否定している。その他、羽柴秀吉、徳川家康、高野山、境商人などを黒幕とする諸説も一蹴にふし去っている。
その主な論拠は「機密保持」と「光秀の性格」にあるようだが、なるほど納得させられるものである。
結局、両者は高柳光寿 『明智光秀』を基本的に肯定し、明智光秀単独の”野望説”には否定を加えていない。小和田哲男 『明智光秀』の主張(信長非道阻止説)は”珍説”として棄て、桑田忠親 『明智光秀』の”怨恨説”は、桑田氏の学説の変遷を指摘している。
ただ、謀反の理由について明示することはなく、野望説と怨恨説を二者択一するのは、光秀の人間としての複雑な心理を考えれば、適当ではないとされている。

ともかく、口角泡飛ばすような鋭い文脈で各説を否定しているが、その内容は冷静なものであり、逆にこれら論者の再反駁を期待したいところである。

著者曰く
日本人の謀略話好きがある。彼らにとって、本能寺の変は恰好の題材であった。話題性は十分だし、解明の行き届いていないところや史実か俗説かの境目が曖昧になっている話がいくらでもある。あとは勝手に空想をふくらませれば、なんとでも言うことができる。

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