『信長の戦争
『信長公記』に見る戦国軍事学』
藤本正行 著 |
講談社 刊 |
平成15年1月10日(初版) 1000円 |
評 価 |
著者は、1948年生。慶應大学卒。轄ハ陽代表取締役。千葉大、東京都立大非常勤講師を歴任。いわゆる正統派の学者ではないが、その研究は示唆に富み、画期的であり、戦国史を大きく変化させるほど価値のあるものばかりだ。 本書は、著者が『歴史読本』などで長年に亘り発表されてきた論文を一冊に纏めたもの。 副題にあるように、太田牛一の『信長公記』に書かれている織田信長の合戦史を丹念に追っていくというもの。『信長公記』の史料的な価値を否定する人はいないであろう。したがって、これは史実探求としては当然の姿勢である。 その内容というのは、我々の常識に反するものである。ざっと挙げても、 それは、すなわち実証的な歴史学であり、史実を解明する真摯な姿勢である。 例えば、長篠合戦の織田軍の鉄砲の数は、これまで3,000挺というのが常識だったが、しかし、最初、『信長公記』には1,000挺程と書かれており(三千挺と記載される『信長公記』もあるが、その理由について書誌学的に詳細に解明されている)、これを小瀬甫庵『信長記』が3,000挺と作り、『総見記』などがこれを継承し、明治になって参謀本部『日本戦史』で通説として歴史化してしまったという。 これは、明らかな事実ながら、常識とは異なるため、現在でも受け容れない歴史家が少なくない。 しかし、信憑性に欠ける後年の史料をどれだけ持ち出しても、その信憑性は高まらないし、まして「それまでの実績」などという訳の分からない根拠を頼りとするようでは、藤本氏の新説には全く対抗できないと言わざるを得ない。 このように、学界には、旧態依然の通説にしがみつく権威が多い。これに対して、その常識を覆してきた藤本氏の功績は高く評価すべきものである。 氏曰く、 |