『真説 本能寺』

 

桐野 作人 著

学習研究社 刊
365ページ

2001年3月22日(初版) 725

評 価
★★★★★

著者は1954年、鹿児島県に生まれ。歴史作家。「豊富な資料に裏打ちされた鋭い視点で、硬直した史実の影に埋もれた歴史の真実を見つめなおし、新たなる発見に挑む。」
主な著書に、『
真説 関ヶ原合戦』『破三国志』『反太閤記』『乾坤関ヶ原』『孤高の将軍徳川慶喜』『織田武神伝』など多数。

本書は、”戦国史最大の謎である「本能寺の変の背景と真相に鋭く斬り込み、信長をとりまく状況、そして謀叛に至るまでの光秀の動きとその最期を、膨大な史料を駆使してドキュメントタッチで追う一方、謀叛の諸説を検証・批判しながら、光秀謀叛の陰に隠れた真相を浮き彫りした”というもの。

この作品は実に素晴らしい。著者の肩書きは作家らしいが、へたな歴史学者など足元に及ばないほどの研究をされている。

実証的歴史学として、同時代の史料に基づき、丹念に分析・検討が行われている。特に『宇野主水日記』『言継卿記』『『兼見卿記』『晴豊公記』など一級史料に従って記述され、織田氏と朝廷の関係について、分かりやすく描かれている。

これまで見られなかった事実も多く書かれており、本能寺研究の基本書と成り得るだろう。

なお、著者は光秀謀叛の理由について、これまでは【朝廷関与説】を主張されていたが、本書ではそれを「論拠不十分であり、いささか転倒した方法論だったと痛感している」と真摯に述べられ、【信長の四国政策】が背景にあると転換されている。
このあたりの柔軟さは、面子を重視する学者にも見習ってもらいたい。

本能寺に関しては、高柳光壽『本能寺の変』と本書が補完的な存在になっており、この2冊を読むだけでかなりの事柄を知ることができよう。

著者曰く、
光秀は見事に謀叛を成就させた。しかし同時に、それによって生じた謀叛以上の課題や困難に直面せざるをえなかった。結局、光秀はそうした政治課題を達成できないままに、織田権力内で光秀の有力な競争者だった羽柴秀吉と一門の信孝との同盟を中核とした反光秀連合軍に敗北を喫したのである。

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