『城と隠物の戦国誌』

藤木 久志 著

朝日選書 刊

2009年12月25日(初版)
250ページ 1,300円

評 価
★★★

著者藤木久志氏は、1933年新潟県生まれ。立教大学名誉教授。専門は日本中世史。新潟大学卒業。新潟大学では井上鋭夫に師事。東北大学大学院修了。聖心女子大学助教授、立教大学教授、1986年「豊臣平和令と戦国社会」で文学博士。99年立教大を定年となり2002年まで帝京大学教授(『Wikipedia』)。特に戦国史の研究で有名。『日本の歴史』は戦国史を知る好著。
本書は
雑兵たちの戦場』『土一揆と城の戦国を行く』の続編と言えようか。

本書は、「「村に戦争が来る」「村が戦場になる」そんな噂を聞いたとき、ただ呆然としていれば、ヒトもモノも敵方の雑兵たちに「乱取り」されてしまう。この乱世を行き抜くための危機管理の焦点に城と隠物があった。
多くの落城の光景の中に女性や子どもの姿がある。城は村人たちの避難所であった。だから、城の維持・管理は彼らの責任で行った。城から遠ければ、山中の「村の城」に篭もって難を逃れた。
それでは財産はどうするか?持ち運べないものは穴を掘って埋めて隠したり、寺社や他所の村や町に預けたり。「隠物」「預物」の習俗は生き残り策の土台にあった。発掘された銭甕や地下の穴など考古学の成果に注目した著者は新たな視点から戦国びとの危機管理の実態を描き出す。
」というもの。

一級の戦国史家が、戦国時代での雑兵や民衆の生き様を扱った一冊。ほかにあまり目にすることの無い歴史がつづられており大変面白い。そして一級史料に基づいて実証的に記されている。
中世の人びとが、どうやって日々を生き抜いてきたのか、そういった生々しい歴史が連綿と記された好著である。
他の研究者の説を積極的に明示して採り入れていく態度は、極めて好感の持てるものである。

藤木氏は、これまで、戦国の城を「ムラの人々の避難場所」(村の城)であると論説されてきたが、一方で、その人々の財産・家財などはどうしていたのか、について研究された書籍である。それは穴を掘って地中に埋めたり、寺院に預けたりなど、いろいろな工夫があったということである。

著者曰く
中世では、ニワトリやネコから、食物、家財、材木まで、ふだんから身構えて他所に預け隠していた。その習俗の痕跡は、日本のいたるところに遺されていた。ふだんの危機感が生んだ、危機の分散という英知からであったろうか。城も隠物も危機管理の焦点に位置していたのである。

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城と古戦場