『定本 武田勝頼』

 

上野晴朗 著

新人物往来社 刊

昭和53年3月25日(初版) 2500円
367ページ

評 価
★★★★

著者は、1923年、山梨県生まれ。歴史家・作家。山梨県立図書館郷土資料室、県立図書館塩山分館長、山梨県文化財審議会委員、NHK大河ドラマ「武田信玄」の時代考証を歴任。

本書は、武田勝頼の伝記本としては唯一の書籍であった。(その後、柴辻俊六氏が同様のものを出版されている。)

もっぱら、信玄よりも劣り、猪突猛進で政治力に欠ける武将として流布し、甲斐武田氏の滅亡を呼んだ愚将との評価が多かった武田勝頼を見直す本。

史料は、やはり『甲陽軍鑑』が基本となるが、その他にも多数の古文書などを用い、よくここまで調査・整理されたものだと感心させられる。悲哀の武将だけに、読んでいてとても興味深い内容だった。
名著と言ってもいいだろう。

その出典から疑義のある内容も見られるが、勝頼の通史を記載したものとして大変貴重だ。
柴辻俊六氏『武田勝頼』(平成15年)も同書を敷衍するようなものである。

また、『甲陽軍鑑』についても再評価を試みている。つまり、その史料性をある程度認め(「歎異の書」として)、積極的に採用している。これについては、近年、同調する学者も散見される。

著者曰く、
「文献史学の偏重から、事実関係のみを追う世界からのみ、軍鑑が評価されていたことは、不幸であったとしか言いようがない。おそらく、そんななかへ、いきなり軍鑑は歎異の書であるなどともち出せば、きっと反発されるのは請け合いと思ったのだが、新しい歴史的観点の探訪のため、私は出発しなければならないと思った。」

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