『検証 長篠合戦』

 

平山 優 著

吉川弘文館 刊
247ページ

2014年8月1日(初版) 1,800

評 価
★★★★

著者・平山 優(1964年1月10日生)氏は、東京都出身。立教大学大学院修了。山梨県立中央高等学校教諭、山梨大学非常勤講師、山梨県史編さん室主査、武田氏研究会、中世史研究会、戦国史研究会、織豊期研究会、山梨郷土研究会会員。武田氏研究会副会長。
戦国武田氏を中心とした研究活動を精力的に行なっている。名著に『川中島の戦い』。

本書は、今一度の史料批判、鉄炮玉化学分析などの新成果を加味。両軍の鉄炮装備、兵農分離軍隊の実態など、合戦の諸問題を徹底的に検証する。武田騎馬軍団を、織田・徳川の三千挺の鉄炮隊が三段撃ちで撃破。近年、その通説が揺らいでいる。両軍の鉄炮装備、武田騎馬衆の運用、兵農分離軍隊の実態など、合戦の諸問題を徹底検証。長篠合戦の真相に迫る話題作。というもの。

甲斐武田氏研究の第一人者による長篠合戦の専門書で、前著『長篠合戦と武田勝頼』と対になるものである。
その筆致は極めて実証的・科学的で真摯なものである。藤本正行氏らによって進められた長篠合戦の通説批判をさらに深化させたもので、現在の到達点だと云うことができよう。

特に重要なのが、武田氏・織田氏ともに鉄炮を重視していたが、なぜ武田氏の調達量が足りなかったのかを科学的視点から論説している点である。
また、武田氏の騎馬衆の有様を述べ、「戦国の馬はポニーだったから実戦には用いることが出来ない」とする近時の学説を実証的に批判している。
さらには長篠古戦場における陣城遺構の評価、馬防柵の実態、武田軍の合戦に対する意識など、重要な提言が多く、長篠合戦の基礎的な研究が記されている。

本書は長篠合戦のみならず、武田氏の根幹を知ることができる貴重な一冊である。

著者曰く
武田軍将卒らは、たとえ味方が不利であっても、戦場に踏みとどまることこそが戦功と名誉を獲得し、褒章される大きな可能性が期待されると認識していた。そのような意識が浸透していたことこそ、武田軍の損害を逆に大きくし、その戦闘継続能力を失うという皮肉な結果を招いたと考えられる。記録を探る限り、武田軍が総崩れになった合戦は、長篠合戦だけである。そして総崩れになったが故に、武田軍は追撃戦を受け甚大な損害を受けたのだった。そして武田勝頼の敗北は、その後の戦国史を大きく転換させる結果を、すなわち織田信長の強大化という潮流を不動のものとしたのだった。

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