『偽書の精神史』

 神仏・異界と交感する中世

佐藤 弘夫 著

講談社選書メチエ 刊

2002年6月10日(初版)
246ページ 1,600円

評 価
★★★

佐藤 弘夫氏((さとう ひろお、1953年(昭和28年) - )は、日本の宗教学者、東北大学教授。 宮城県生まれ。東北大学文学部史学科卒。1978年同大学院文学研究科博士前期課程修了。盛岡大学助教授、東北大学文学部助教授、文学研究科教授。2000年「神・仏・王権の中世」で東北大学博士(文学)。日本宗教史(『Wikipedia』)。

本書は、天狗・魔王が跳梁し、神仏の声響く“魔仏一如”の世界=中世。膨大な偽書はなぜ書かれたのか。新仏教を生みだした精神風土はなにか。混沌と豊穣の世界に分け入り、多彩な思想を生みだす力の根源に迫る。 偽書を創り新仏教を生む混沌と豊饒の世界。中世人を偽書制作へと駆り立てたものは何か? その同じ精神が新仏教を生み出すメカニズムとは? 新仏教と偽書に通底する精神構造を解き明かす、画期的中世論。というもの。

中世(本書では11世紀末から16世紀後半まで)では多くの”偽書”が作られ、巷間に流布していたが、その背景・土壌について研究した一冊である。

専門書ながら読みやすい文体であり、多くの引用がなされ理解しやすくなっている。例えば聖徳太子が書いたと伝わる多くの”偽書”があるようだが、それが書かれ、伝承されてきた歴史を理解することができる。
結局、簡単に言うと、今の「無宗教」と云われる日本人とは異なり、中世の人々は深く宗教に帰依しており、その未来を案じ、平穏を求め、偉大な宗教家・政治家・先達の名前を借りた書が多く流布した、ということのようである。

本書は、もっぱら”偽書”を宗教史の面から探求したものと言える。
小生は、戦国時代に、宗教以外の分野で多くの”偽書””偽文書”が作成されたことに興味があって本書を手に取ったが、これには触れられていない。

また、著者の云う中世日本人の心理的な土壌が事実であれば、それは”偽書”などという、マイナスイメージの単語は適切ではないとも思われる。

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