『徹底分析 川中島合戦』

半藤 一利 著

PHP社 刊

2000年6月22日(初版)
257ページ 1,300円

評 価

著者半藤一利氏(1930年5月21日 - )は、作家、随筆家。近現代史、特に昭和史に関し人物論・史論を、対談・座談も含め多く刊行している(『Wikipedia』)。

本書は、リーダーの資質とは何か。勝てる組織とはいかなるものか。川中島合戦の両雄、信玄と謙信を近代戦史の視点で説いた画期的書。武田信玄と上杉謙信がぶつかり合った戦国最高の大合戦、川中島合戦。本書は、『ノモンハンの夏』など昭和史研究で知られる著者が、近代戦史の視点を通して川中島合戦を分析。勝つための人間学を徹底的に追求する。著者は言う。「戦場にあって戦うのは、時代がいかに変ろうとも、人間である。いかに強大を誇る軍隊、あるいは組織であっても、所詮、それを動かすのは人間なのである。そこには人本来の過誤、油断、不手際、錯覚、逡巡などがつきまとう。特に彼我が厳しく競り合う戦いの場においては、錯誤の多いほうが敗者の悲運を背負わねばならないことは、いつの世も変りない。そうであるがゆえに、勝利者となるためには、人間の本質を知る必要がある」「人は城人は石垣」といったという信玄。毘沙門天と一体となることを願い、「ただ機に臨みて戦う」と記した謙信。人間とは何か、指導者とは何かを問う、今までにない、戦国合戦譚であるというもの。

有名な川中島合戦を「徹底分析」された書だという。自身でも「徹底研究する」と述べられている(272頁)。

しかし、本書から、川中島合戦やその関連事項の史実は何一つ見出すことはできない。”徹底分析”されている資料は、現代の小説である。
昭和の歴史小説をいくら列記しても、そこから戦国時代の真実を知ることはできまい。

また『甲陽軍鑑』については、「合戦そのものに関する記事はごく簡単で、文章も悪く、いかにも物足りない」と書き(10頁)、「いかにあてにならないかは、大軍師山本勘助をでっちあげていることだけでハッキリしている」と言いつつ(84頁)、「しかし、せっかく名軍師の一人に仕立てられた歴史上の人物である。あえて否定し去るのもしのびない」として(174頁)、もはや支離滅裂である。

しかしながら著者自身が、「本書は、歴史読み物というのがいちばんよろしかろうか。(中略)徒労もいいところといえようか。」と述べている。大いに同意するが、そもそも、本書のタイトルや判型がいかにも歴史研究書と誤認させる編集者に問題があるのかも知れない。

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城と古戦場