証言 本能寺の変

史料で読む戦国史 

藤田達生 著

八木書店 刊

2010年6月2日(初版)
330ページ 3,400円

評 価
★★

著者藤田達生氏は、1958年、愛媛県生まれ。1987年、神戸大学大学院博士課程修了、学術博士(神戸大学)。現在、三重大学教育学部教授。専攻は日本中世史・近世史。

本書は、「従来の常識・通説に左右されることなく、「本能寺の変」を史料に基づき検証!本能寺の変研究を、織田政権論の重要なテーマとして位置づける。 」というもの。

本能寺の変について、足利義昭黒幕説を主張する藤田達生氏の近著である。この説は、藤本正行氏らによって批判・否定されているが、史料の提示によって再主張を試みられている。

さまざまな一級史料や専門書を引用しており、鞆幕府の存続・足利義昭の影響力維持を連綿と記している。
しかしながら、どうも我田引水の感を否定できず、通読しても解せないところであった。また、藤田氏の説を批判した谷口克広氏、堀新氏には、若干の反論を載せているが、肝心の藤本正行氏の主張には全く触れていない。

結局のところ、本書を精査しても、本能寺の変は、明智光秀の単独犯であって、足利義昭が鞆幕府として黒幕にあったという説は採ることができない。
(ただし、秀吉との派閥闘争に敗れ、左遷の危機に直面したのが契機である、という段階までは首肯できる)

蛇足であるが、著者は洋語を好むようで、「レジデンス」「クーデター」「アナロジー」「イデオロギー」などの単語が踊っているが、少し違和感を覚えた。

 戻る

城と古戦場