『武田軍記』

 

小林計一郎 著

人物往来社 刊
朝日新聞社(朝日文庫) 復刊(昭和63年)

昭和40年7月(初版)
昭和63年1月20日(復刊) 420円
290ページ

評 価
★★★★

大正八年(1919)長野県長野市に誕生した著者。長野県史編纂委員、長野郷土史研究会会長などを歴任され、豊富な論文と的確な分析をもつ武田氏研究の大家である。

本書は、自身で
「歴史書ではあるが、専門書ではない。かといって単なる軍記物語や案内記でもない。(中略)小説ではないから、フィクションはいっさい用いない。」
と述べられるように、文庫サイズにも関わらず、史料に基づいた歴史書である。

信玄、勝頼(一部信虎も)の生涯を記しているが、一読しただけでも相当数の史料を用いていることは明らかである。しかし、その書きぶりは平易なもので、大変読みやすい。
しかも、内容に無駄なところはなく、一気に読破することができ、さらに一級史料に基づく史実を理解することができる。

「わずらわしい考証はなるべく避ける」という方針ながら(その考証を知りたい気もするが・・・)、必要最低限のところはおさえている。例えば、勝頼の最後を書き綴った『理慶尼記』の引用で、「ただし、この記、後人の作ともいう」と注記を付されている。

このように、甲斐武田氏の正しい歴史を知る入門書としては最適である。新田次郎氏が小説『武田信玄』(昭和63年NHK大河ドラマ「武田信玄」原作)の種本のひとつにしたのも納得だ。

「たとえ軍記物語・通俗史書におもしろい話があっても、確実な史料に従う。事実こそもっとも興味深いからである。」
とは、著者の名言だと思う。

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