『山本勘助のすべて』

 

上野 晴朗 (編集), 萩原 三雄 (編集)

新人物往来社 刊

2006年12月15日(初版)
265ページ 2,940円

評 価
★★

〈上野晴朗〉1923年、山梨県生まれ。歴史家・作家。山梨県立図書館郷土資料室、県立図書館塩山分館長を経て、執筆活動に入る。その間、山梨県文化財審議会委員、NHK大河ドラマ「武田信玄」の時代考証を担当。 主著に、『定本 武田勝頼』『山本勘助『甲斐武田氏』『武田信玄 城と兵法』『落日の武将武田勝頼』ほか多数。
〈萩原三雄〉1947年山梨県生まれ。帝京大学山梨文化財研究所所長。著書に『中世の城と考古学』など。

本書は、「市川文書により実在が確認された武田軍の名軍師・山本勘助。勘助をめぐる独特の閉塞感を打破し、あらゆる観点からその実像に迫る。「甲陽軍鑑」をはじめ、さまざまな伝説伝承類を史料化し、勘助像をより具体的に描く。 」というもの。

新人物往来社でシリーズ化されている「〜のすべて」の一冊。
このシリーズすべてに言えることだが、共著であるがゆえに、それぞれの研究・執筆スタイルに差異が見られる事、論文の寄せ集めのような形で一貫した記述になりにくい事が難点として挙げられる。

しかも、大河ドラマに向けて出版されたものゆえ、山本勘助に肯定的な執筆者が集められている。冒頭では「山本勘助にみる軍師の役割」と題して作家・童門冬二氏が勘助を語っている。そこでは、「M&A」とか「ITの達人」とかいう単語が踊っている。

本書は、内容的には上野晴朗氏『山本勘助』を越えるものではない。各地の伝承などがやや詳しく紹介されている程度である。それも致し方ないところで、勘助に関する一級史料は『市川文書』しかないのである。
ただ、「山本勘助のすべて」と冠するのであれば、『甲陽軍鑑』の勘助が出てくる箇所を列記・網羅するくらいのことは必要でなかろうか?無駄な記事が多すぎる。

本書にあまり見るべきところは無かったが、数野雅彦氏の論文「甲府城下町の山本勘助」によれば、勘助屋敷の伝承地は武田氏館から離れた身分の低い場所であるという。このあたり妙なリアリティが感じられ興味深かった。

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