『関ヶ原合戦』

家康の戦略と幕藩体制

笠谷和比古 著

講談社選書メチエ 刊

1994年2月11日(初版)
245ページ 1,500円

評 価
★★

笠谷和比古氏は、1949年神戸生まれ。京都大学文学部卒業。同大学院博士課程修了。文学博士。国際日本文化研究センター教授。専攻は日本近世史・武家社会論。

本書は、”関ヶ原での東軍の勝利は「徳川の力」によるものではない。秀忠の軍勢3万の遅参、外様大名の奮戦。不測の事態が家康の計算を狂わせた。苦い勝利。戦後処理の複雑な陰翳。300年の政治構造がここに決定される。近世の幕藩体制の礎を築いた「天下草創」の戦いを描ききる。”というもの

関ヶ原の戦いに関する書籍は多いが、合戦の有様を実証的に明らかにしたものは実に少ない。本書は、現在でも引用する専門書が多く、通説的に扱われている好著らしいので購入した。

その特徴としては、関ヶ原合戦をミクロで見るのではなく、安土桃山時代から徳川時代、幕藩体制の創生に関わる政治史的な観点で分析している事を挙げられる。その点、学術的な意義は認められるだろう。

 

しかし、肝心の関ヶ原合戦の全過程・日時・場所・人数・戦闘の経緯が、参謀本部『日本戦史・関原役』にもっぱら依拠しているというのである。(215頁)

これには大変失望した。管理人は戦いの史実を求めて通読しただけに、満足を得られる内容ではなかった。
いくら政治史を分析しても、その土台となる歴史が磐石でないのでは、それは”砂上の楼閣”といえるのではなかろうか。

著者曰く、
「関ヶ原合戦が歴史の過程のなかで担った意義は、徳川幕府による日本全土に対する一元的で中央集権的な支配体制を確立したことではなく、むしろさまざまな局面において、分権的で多元的な政治秩序をその後の近世社会に対して付与したことにあるように思われる。」

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