『偽書『武功夜話』の研究』

 

藤本正行 鈴木眞哉 著

洋泉社 刊
281ページ

2002年4月20日(初版)
780円

評 価
★★★★

藤本正行氏は、1948年生。慶應大学卒。轄ハ陽代表取締役。千葉大、東京都立大非常勤講師を歴任。いわゆる正統派の学者ではないが、その研究は示唆に富み、画期的であり、戦国史を大きく変化させるほど価値のあるものばかりだ。

鈴木眞哉氏は、1936年生。中央大卒。防衛庁、神奈川県に勤務。「歴史常識」を問い直す研究を続け、著書に『信長は謀略で殺されたのか』など多数。

本書は、戦国時代の史料『武功夜話』について、その史料的価値を考察し、結果として後年に造られた偽書であると断定するもの。

『武功夜話』は、少し前の専門書では何の批判もなく採用され、また、そのドラマチックな内容が広く人口に膾炙し、それらが史実と信じられていたものであり、これらが虚実だと指摘する本書は、鮮烈な印象を残すだろう。

主だったところでは、「墨俣一夜城」をメインとする秀吉出世譚の多くは『太閤記』『武功夜話』等後年の史料に拠るものであり、それらは史実でないと指摘される。
現在「墨俣一夜城」のある場所には「城あと」「城腰」などの字が残っており、ここが城址であることは事実だろうが、それは、池田氏の重臣・伊木氏の城塞だったのであり(『秀吉文書』『濃陽志略』『濃州徇行記』『濃州御領分之内村々万覚帳』)、ここが秀吉の「一夜城」と同一視されるようになったのは明治以降だとされる。また、その「一夜城」の逸話自体が、信憑性のないものだとされる。

そのような史料批判は、それを信じていた歴史愛好家にとっては残念な事実である。しかし、史実としての歴史を知るためには必要な作業である。

著者曰く、
「問題としなければならないのは、無批判にそんなもののチョウチン持ちをし、すばらしい史料であるかのような情報を日本中に垂れ流す役割を果たした一部の学者、文化人、マスコミ関係者などの存在であろう。」

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城と古戦場