『織田信長』

人物叢書

池上 裕子 著

吉川弘文館 刊

2012年12月20日(初版)
302ページ 2,300円

評 価
★★★

著者池上裕子氏は、1947年生まれ。1977年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、成蹊大学文学部教授。

本書は、桶狭間の戦いから本能寺の変まで、一生涯みずからの支配領域(分国)拡大の戦争に明け暮れる。強い主従意識のもとに家臣を指揮・統制し、抵抗勢力には残虐な殺戮に走り鬱憤を散じた。天下統一に邁進した革命家のごとく英雄視する後世の評価を再考。「天下布武」の意味を問い直し、『信長公記』や信長発給文書などから浮かび上がる等身大の姿を描く。というもの

信長公記』及び奥野高廣『織田信長文書の研究』を基に記述されており、その他、別の史料がたまに出てくる書き振りである。
したがって、最新の研究や細かい論証は省かれ、通説的な筆致に終始していると言ってよいだろう。本能寺の変の明智光秀の動機についても、筆者の意見はほとんど述べられていない(信長への不信、将来への不安、四国攻めとの関係が示唆されている。)

また、信長に対する評価は概して厳しく、織田政権は、独裁性、専制性、残虐、破壊、殺戮によって成り立っており、「英雄視しない」「豊臣政権・江戸幕府の成立への地ならし」「百姓や村と正面から向き合おうとしなかった」「農政・民政がない」と言い、「本能寺の変がなかったら、全国平定は早くに成就したと予測する人もいるが、はたしてそうだろうか。」とされている。
このあたりには疑問もある。

ただ、現在流行っている(?)、”信長は凡将であり、改革者ではない”などとする「トンデモ論」ではなく、人物叢書らしい冷静な人物伝にはなっている。
また、徳川家康と同様に、網羅的な伝記が見られない織田信長の人物伝として、コンパクトで、要領良くまとめられている点は評価できよう。

そうは言っても、ある程度戦国史を知っている読者にとっては、あまり目新しいものはないし、はしがきで断っていられるが、あまりにも史料の明記が少ないのは残念である。どうせなら、倍くらいのボリュームで、もっと本格的な書籍にした方が良かったのではないかと感じられる。

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